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8.3. カプセル化

構造体を使うときは、ただ複数の変数をまとめたいだけではなく、まとめたものに何らかの"役割"を持たせることが多い。 例えば、6.2. の例では trap_idstudent_idgrade をまとめた Member 型は、「traP部員」の変数という役割を持つ。

このように役割を持った構造体があるとき、構造体が持つ各メンバーの情報より、そのメソッドによる"振舞い"の方が必要とされることがある。

例えば、6.2. の例の中では生の情報としては student_id しかないが、使う側が知りたかったのは 22B という情報のみである。

cpp
struct Member {
    string trap_id, student_id;
    int grade;
    string getStudentPrefix() {
        // ドットなしで自分自身のstudent_idにアクセスできる
        string s = student_id;
        string result = {s[0], s[1], s[2]};
        return result;
    }
};

"振る舞い"の方が期待されれば、期待されないそれ以外の情報は、使う側にとって知る必要がないし、それどころか知ってしまってはプログラムの複雑性が増してしまうということがある。

このとき、知る必要のあるメンバ変数やメソッド以外はむしろ積極的に外部のプログラムから隠蔽したくなってくるのである。 もっと言えば、メンバ変数もメソッドを介して操作したくなる。そうすれば外部からいきなりメンバー変数が書き換わることがなくなり、構造体を制御しやすくなる。

INFO

このあたりの感覚は、ある程度プログラミングに習熟しないとわからないと思う(逆に、初心者が理解できたら怖いと思う)。 理解できなくてもプログラミングに支障はないので、無視して進んでくれても構わない。ただ、いつかは身に付けて欲しい。

このように、必要なメンバ変数やメソッドだけを公開してそれ以外を隠蔽することを、カプセル化と呼ぶ。

C++でカプセル化をするには、定義の前後にpublic:private:を置く。 public: の後のメンバ変数やメソッドは公開され、private:の後のものは隠蔽される。

公開されたメソッドから隠蔽されたメンバを参照することはできる。

cpp
struct hoge {
    public:
    int a; // 公開
    string b; // 公開
    int c() { // 公開
        return 10;
    }
    private:
    int d, e; // 隠蔽
    string f() { // 隠蔽
        return b;
    }
    public:
    bool g; // 公開
    int h() { // 公開
        return d + a;
    }
};

TIP

structの代わりにclassというキーワードでも構造体を宣言することができる。structだとデフォルトでpublic だが、classだとデフォルトでprivateになるという違いがある。

カプセル化したコードの例を見てみよう。以下は構造体 Car である。

Accelerate() で加速、 Brake() で減速する。また、 MoveFoward() で前進する。

cpp
struct Car {
    private:
    int speed = 0;
    int pos = 0;

    public:
    int GetSpeed() {
        return speed;
    }
    int GetPos() {
        return pos;
    }
    void Accelerate() {
        speed += 3;
        MoveFoward();
    }
    void Brake() {
        speed -= 2;
        if (speed < 0) speed = 0;
        MoveFoward();
    }
    void Stop() {
        speed = 0;
    }
    void MoveFoward() {
        pos += speed;
    }
};

このような場合において、減速・加速を main 関数内で行うと以下のようになる。

cpp
int main() {
    Car car;

    car.Accelerate();

    car.Brake();

    cout << car.GetSpeed() << endl;
    cout << car.GetPos() << endl;

    car.MoveFoward();

    car.Stop();

    cout << car.GetPos() << endl;    
}

これを関数を用いずに実装すると以下のようになる。

cpp
int main() {
    int car_speed;
    int car_pos;

    car_speed += 3;
    car_pos += car_speed;

    car_speed -= 2;
    car_pos += car_speed;

    cout << car_speed << endl;
    cout << car_pos << endl;

    car_pos += car_speed;

    car_speed = 0;

    cout << car_pos << endl;

}

これらの動作は同一であるが、前者の方がコードを読めば何をしているのかがわかりやすいだろう。 具体的にどれくらい減速するのかは main 関数からは分からないが、カプセル化を適切に行えば「どのように加速されるか」を気にする必要はなくなる。

更に、加減速の条件を変更したいと思った時(例えば、加速するとスピードが +3 ではなく +4される事にしたい)に、変更する部分は少なく済む。 これがカプセル化の大きなな恩恵である。